言葉辞典
ことわざ

河童の川流れ

かっぱのかわながれ

ことわざの意味

水泳の達人とされる河童ですら川に流されることがあるように、どれほど熟練した名人や達人と呼ばれる人でも、油断や不注意によって思わぬ失敗を犯すことがある。得意分野であるほど慢心しやすく、その油断こそが失敗を招く。この表現は失敗に対する戒めとして使われるとともに、失敗した相手を責めずに慰める場面でも用いられる。

言葉の由来

泳ぎの名手とされる河童が、その川で流される。精選版日本国語大辞典は「水中で自由自在に泳ぎまわる河童でも、時に水に押し流されることがあるというところから」と説く。ほかの由来には触れていない。特定の人物や事件に結び付く由来を記した辞典も見当たらない。確かめられるのは用例の年代で、精選版が挙げる最も古い例は滑稽本『浮世名所図会』(一八二九年)、集英社『会話で使えることわざ辞典』は人情本『操形黄楊小櫛』を出典に掲げる。いずれも江戸後期の戯作で、遅くともその頃には使われていたとわかる。民間伝承から自然に生まれたという説明はしばしば目にするが、裏づけとなる資料は見当たらない。「弘法にも筆の誤り」「猿も木から落ちる」「上手の手から水が漏れる」は、同じ教訓を持つ類句として辞典でも並べて掲げられる。

使い方の例

  • “経験豊富なシェフが味付けを間違えた。河童の川流れとはこのことで、名人でも油断は禁物だ。”
  • “ベテランのプログラマーがうっかりバグを見逃した。河童の川流れ——プロほど確認作業を怠らないようにしたい。”
  • “チャンピオンが格下に敗れた。河童の川流れ、試合というものは最後まで分からない。”
  • “彼女は英語が得意なのに、あの簡単な単語を読み間違えた。河童の川流れだね。”
  • “何十年もハンドルを握ってきたベテランドライバーが接触事故を起こした。河童の川流れで、慣れが逆に危ない。”

似たことわざ

弘法にも筆の誤り猿も木から落ちる上手の手から水が漏れる

対のことわざ

七転び八起き習うより慣れろ

英語の表現

Even experts make mistakes. Even Homer nods.

使う場面

失敗油断教訓日常会話

参考文献

このページで確認した資料

意味・由来の記述は、次の資料を照合して編集しています。

  • コトバンク「河童の川流れ」 — 精選版が「水中で自由自在に泳ぎまわる河童でも、時に水に押し流されることがあるというところから」と語釈し、滑稽本『浮世名所図会』(1829)を初出例に挙げること、デジタル大辞泉・ことわざを知る辞典が弘法にも筆の誤り・猿も木から落ちる・上手の手から水が漏れる等を類句に掲げること、どの辞典も特定の人物・事件に結び付く由来を記していないことの確認
  • 集英社 imidas『会話で使えることわざ辞典』「河童の川流れ」 — 出典として人情本『操形黄楊小櫛』を挙げること、類句に「泳ぎ上手は川で死ぬ」を加えること、この辞典も由来(成立事情)を記していないことの確認

編集の基本参考文献

  • 新村出 編『広辞苑 第七版』岩波書店, 2018年
  • 松村明 編『大辞林 第四版』三省堂, 2019年
  • 尚学図書 編『故事ことわざ辞典』小学館, 2012年

関連することわざ

ことわざ

猿も木から落ちる

さるもきからおちる

その道に優れた者でも、時には失敗することがあるということ。木登りを本業とする猿でさえ木から落ちることがあるように、専門家・名人・熟練者でも例外なくミスをする。他者の失敗を責めない戒めとして使われるほか、ミスをした自分や身近な誰かを慰める言葉としても用いられる。完璧を過度に求めることへの戒めともなる。

ことわざ

弘法にも筆の誤り

こうぼうにもふでのあやまり

どれほど熟練した人、経験を積んだ人でも、ときには書き損じや判断ミスをするということ。優れた相手の小さな失敗を必要以上に責めないときや、自分の失敗を認めて立て直すときに使う。失敗を免罪するための言葉ではなく、名人でも誤るなら、確認と修正を怠らないという含みがある。大きな損害や繰り返した不注意を軽く扱う場面には向かない。

ことわざ

急いては事を仕損じる

いそいではことをしそんじる

何事も焦って急ぐと失敗しやすいということ。急ぎすぎると注意力が散漫になり、手順を飛ばしたり確認を怠ったりして、かえって手直しや取り返しに時間がかかってしまう。「急いては」は「急いで行動すれば」という仮定の表現、「仕損じる」は「やり損ねる・失敗する」の意。物事に落ち着いて取り組むことの大切さを説く、日本の代表的なことわざのひとつ。

故事成語

覆水盆に返らず

ふくすいぼんにかえらず

器からこぼれた水は二度とその器に戻せないように、一度起きてしまったことはどれほど悔やんでも元の状態に戻すことができないということ。過去の失言・別れ・失敗・壊れた信頼関係など取り返しのつかない事態に対して用いられる。後悔への戒めとして機能するとともに、過去に縛られず前を向くことを促す含意も持つ表現である。

慣用句

水に流す

みずにながす

過去のいざこざや恨みをなかったことにすること。許すこと。

ことわざ

口は災いの元

くちはわざわいのもと

不用意な発言や軽はずみな言葉が、本人にとって予期せぬ災難や困難を引き起こす原因となることがある。言葉はひとたび口から出ると取り消すことができないため、発言には十分な注意が必要であるという教訓。怒りや感情的な状態での言葉、機密の漏洩、場をわきまえない一言に対する戒めであり、SNS全盛の現代においてこの教訓はより一層重みを増している。

ことわざ

急がば回れ

いそがばまわれ

急いで目的を達したいときほど、危険な近道ではなく、安全で確実な方法を選んだほうが、結局は早く着くというたとえ。遠回りそのものを勧める言葉ではなく、失敗ややり直しの大きい場面で、手順の確認や準備を省かないという判断を表す。締切が迫る仕事、慣れない道、重要な契約などで使いやすい。単に遅い行動を正当化する意味にはならない。

ことわざ

犬も歩けば棒に当たる

いぬもあるけばぼうにあたる

何かをしていれば思わぬ幸運に出会うこともある、ということ。また、出しゃばると災難に遭うという意味もある。

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