言葉辞典
ことわざ

思い立ったが吉日

おもいたったがきちじつ

ことわざの意味

何かをしようと決心したなら、暦の上の吉日など待たずに、その日のうちに行動を起こすべきだということ。決意が生まれた瞬間こそ気力と集中力が最も高い時であり、その勢いを逃さないことを促す言葉。「大安を待ってから始める」よりも、自ら決断した日こそが本当の吉日だという考え方で、完璧な条件が揃うまで動かないという先延ばしの習慣への戒めでもある。

言葉の由来

このことわざの文献上の初出は、室町時代に成立した謡曲「唐船(とうせん)」とされる。作中に「思ひ立つ日を吉日と」という表現が見られ、決意した日を吉日と捉える発想の原形がここにある。 「吉日」の概念には、日本古来の暦注体系が深く関わっている。江戸時代に庶民へ普及した六曜(ろくよう)は、大安・仏滅・先勝・友引・先負・赤口の6種に日を分類し、婚礼や旅立ちなど人生の節目に縁起の良い日を選ぶ指針として広く用いられてきた。特に大安は万事に吉、仏滅は万事に凶とされ、現代の結婚式の日取りにも影響を与えている。 しかし「思い立ったが吉日」は、こうした外的な暦の吉凶に頼る習慣への反論として成立している。「自分が決意したその日こそが、暦に左右されない真の吉日だ」という考え方が核心にある。仏教では親鸞が吉日選びを否定し、行動の根拠を外部の条件ではなく内面の意志に置くことを説いており、このことわざの精神と通じている。解釈は二通りあり、「決意のエネルギーが最も高い瞬間に動け」という能動的な読みと、「最良の日を外部に求めるな、思い立った日が最良になる」という哲学的な読みが共存する。

使い方の例

  • 英語教室に通うかどうか迷っているなら、思い立ったが吉日で今日中に申し込んでしまうといい。
  • 思い立ったが吉日というでしょう。新事業の企画書を書き始めたら、思いのほか形になってきた。
  • 節約を始めようと思い立ったが吉日、その日のうちに不要な月額サービスを整理することにした。
  • 師匠が「思い立ったが吉日だ。今日から稽古を始めなさい」と言って、すぐに道場の鍵を開けてくれた。
  • 「大安の日に始めたほうがいい」と言われたが、思い立ったが吉日で今日から取り組んでみることにした。

似たことわざ

善は急げ鉄は熱いうちに打て好機逸すべからず今日の一針明日の十針

対のことわざ

急いては事を仕損じる石橋を叩いて渡る

英語の表現

There is no time like the present.

使う場面

行動決断先延ばし禁止自己啓発

参考文献

  • 新村出 編『広辞苑 第七版』岩波書店, 2018年
  • 松村明 編『大辞林 第四版』三省堂, 2019年
  • 尚学図書 編『故事ことわざ辞典』小学館, 2012年

関連することわざ

四字熟語

一念発起

いちねんほっき

ある物事を成し遂げようとはっきりと心に決意すること。仏教で菩提心を起こすことを「発起」と言い、そこに「一念」(一途な思い)を組み合わせた表現が日常語に転じた。現代では「よし、やろう」という前向きな決意を表す。特に年度の変わり目・転職・失敗の直後など、人生の節目に用いることが多い。心機一転と異なり、最初の一歩を明確に踏み出すニュアンスが強いため、具体的な行動開始を宣言する場面に向く。

四字熟語

以心伝心

いしんでんしん

言葉や文字を使わなくても、互いの心が自然に通じ合うこと。禅宗で言語や文字を超えて師匠の悟りが弟子の心に直接伝わることを表した語が日常語に転じた。深い信頼関係や長い付き合いの中で言葉を交わさなくても意思疎通できる状態を表す。特に長年連れ添ったパートナー、同じ道を歩んできた師弟、幼馴染など、積み重ねられた時間が生み出す深い相互理解を表す際に使われることが多い。

ことわざ

善は急げ

ぜんはいそげ

よいと思ったことは、ためらわずすぐに実行すべきだということ。

ことわざ

塵も積もれば山となる

ちりもつもればやまとなる

わずかなものでも、積み重なれば大きなものになるということ。小さな努力・節約・積み立てを継続することの大切さを説く。毎日の些細な行動でも長く続ければ大きな成果を生むという教えで、貯蓄・学習・訓練など、地道な継続を励ます文脈でよく使われる。小さなことを軽視しないよう促す意味合いも含み、日々の習慣の力を示す表現。

四字熟語

心機一転

しんきいってん

気持ちや心の状態をすっかり入れ替えて、新たな気持ちで物事に取り組むこと。過去の失敗・悩み・惰性を振り切り、気分を一新して前向きに出発する様子を表す。悪いことが続いた後や、新しい環境に移る際によく使われる表現。特に年度の変わり目や転職・引越しのような節目に用いられることが多く、新しい環境での出発を宣言する言葉として定着している。過去の自分と決別する積極的な姿勢を表す。

ことわざ

継続は力なり

けいぞくはちからなり

何事も根気強く続けることで、やがて大きな力や成果が生まれるということ。小さな努力も積み重なれば無視できない力になり、継続すること自体が能力を育てる。才能の有無にかかわらず、諦めずに続ける姿勢こそが実力の土台になるという意味を含む。大正時代の浄土宗僧侶・住岡夜晃の詩に由来するとされ、宗教的には人格形成と精進の意味合いも持つ。

ことわざ

千里の道も一歩から

せんりのみちもいっぽから

どんなに大きな事業や遠い目標でも、まず身近なことから着実に始めることが大切だということ。始めることの重要性と、一歩一歩の積み重ねを説く表現。壮大な計画の前に及び腰になっている人への励まし、あるいは行動を促す言葉として使われる。長い旅も足元の一歩からというイメージが明快で、動き出すことを後押しする力がある。

ことわざ

果報は寝て待て

かほうはねてまて

幸福は人の力だけでは思い通りにならないことが多い。できる手を尽くしたなら、あとは焦らず静かに時機を待つのがよいということ。「果報」は仏教語で、過去の行いがもたらす善果を意味する。努力を怠ることを許す言葉ではなく、やるべきことを終えた後の心の持ち方を説く。縁は人の都合に合わせては動かない、という静かな諦観が根底にある。

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