言葉辞典
慣用句

胸を撫で下ろす

むねをなでおろす

慣用句の意味

心配していたことが解決して安心すること。ほっとすること。危険や困難が去って、緊張がほぐれた瞬間の安堵感を表す。試験の合格、病気の快復、事故の回避など、心配事が無事に解決したときに使う表現。「胸をなでおろした」と過去形でよく使われる。危険が完全に去ったことを確認してから使う表現なので、まだ不安が残る状況には使わない。

言葉の成り立ち

辞書は語源を記していない。確かめられるのは用例の歴史だけである。精選版日本国語大辞典はこの句にまず「気持をおししずめる」という意味を立て、その古い例に近松門左衛門の浄瑠璃『傾城反魂香』(一七〇八年頃)を挙げる。今日ふつうに使う「心配事が解消してほっとする」意の例は、徳富蘆花『思出の記』(一九〇〇〜〇一年)まで下る。気持を押し静めるという言い方が、江戸期から明治にかけて安堵の表現へ移っていった筋道が、用例の上には見える。安堵した拍子に胸へ手を当てて撫でるしぐさから生まれた、といった説明をよく見かけるが、手元のどの辞典も由来としては記していない。裏の取れない語源は、ここでは書かない。

用例

  • “試験に合格したと聞いて、胸を撫で下ろした。”
  • “救急車で運ばれたが軽傷だったと聞き、家族全員が胸を撫で下ろした。”
  • “台風が予想より東にそれ、地域の住民は胸を撫で下ろした。”
  • “長かった交渉がまとまり、担当者はようやく胸を撫で下ろした。”
  • “プレゼンが無事終わり、胸を撫で下ろした。”

似た慣用句

安堵するほっとする一安心する肩の荷が下りる

対になる慣用句

肝を冷やす胸が締め付けられる冷や汗をかく

英語表現

To breathe a sigh of relief; to be relieved that a worrying situation has been resolved.

使う場面

日常会話ビジネス感情表現

参考文献

このページで確認した資料

意味・由来の記述は、次の資料を照合して編集しています。

  • コトバンク「胸を撫で下ろす」 — 精選版が「気持をおししずめる」義に浄瑠璃『傾城反魂香』(1708頃)、「心配事が解消してほっと安堵する」義に徳富蘆花『思出の記』(1900〜01)を初出例に挙げること、デジタル大辞泉・精選版とも語源を記していないことの確認
  • Weblio 辞書「胸を撫で下ろす」 — 収録辞典にも胸へ手を当てる動作を由来とする記述がないことの確認(由来未記載の根拠)

編集の基本参考文献

  • 新村出 編『広辞苑 第七版』岩波書店, 2018年
  • 松村明 編『大辞林 第四版』三省堂, 2019年
  • 米川明彦・大谷伊都子 編『日本語慣用句辞典』東京堂出版, 2005年

関連する慣用句

故事成語

杞憂

きゆう

心配する必要がないと判断できることを、あれこれ心配する取り越し苦労のこと。中心にあるのは、単に不安を感じることではなく、心配の根拠が乏しいか、心配する理由がなかったと分かることである。だから、まだ安全確認が済んでいない事柄や、備えを要する具体的な危険を、根拠を確かめずに「杞憂」と片付けるのは合わない。事態が落ち着いた後には、「杞憂に終わった」「心配は杞憂だった」と振り返る形でもよく使う。日常の軽い心配なら「取り越し苦労」、起こる可能性を慎重に述べるなら「懸念」と使い分けたい。人の心配を一言で退けるより、何が確認できたら安心できるかを確かめるほうが、この語の重さを誤らない。

四字熟語

泰然自若

たいぜんじじゃく

物事に動じず、落ち着いているさま。とくに予想外の出来事や危険に直面しても、あわてず平常の判断を保つ様子をいう。声を荒らげず表情を変えないことだけでなく、状況を見て必要な対応を続ける場面にも使う。気にかけない、何もしないという意味ではなく、心や態度を乱さず対処する姿勢を表す。準備や時間にゆとりがある状態とは違い、心や態度が乱れない点に焦点がある。

慣用句

頭を抱える

あたまをかかえる

難しい問題や困った状況に直面して、どうすればよいかわからず深く悩むこと。文字どおり両手で頭を抱えるような、深刻な困惑・行き詰まりの状態を表す言葉。解決策が見つからない焦りや絶望感を身体動作に例えた表現で、仕事・家庭・人間関係などあらゆる困難な場面に幅広く使われる。英語の「at one's wit's end(万策尽きた)」に対応する表現。

慣用句

気が置けない

きがおけない

遠慮や気遣いが不要で、打ち解けられる間柄であること。一緒にいて気を遣わなくてよい、心から安心できる相手を指す肯定的な表現。「気が置けない友人」といえば、気心が知れた親しい友人という意味になる。ただし、「気を遣わせて申し訳ない」「なんとなく信用できない」などの否定的な意味で誤用される例が非常に多く、文化庁の調査では約半数が誤った意味で使っているとされる。誤解が生じやすいため、使う場面では文脈を補うか、言い換えを検討するのが無難。

慣用句

気が気でない

きがきでない

心配で落ち着かないこと。気になって仕方がないこと。

慣用句

腹をくくる

はらをくくる

どのような結果になっても受け入れる覚悟を決め、思い切った行動に出る心境になること。『デジタル大辞泉』は覚悟を決める・決意を固める意とし、『精選版 日本国語大辞典』は「どんな結果になってもたじろがないように意を決する」と語釈する。うまくいかなかった場合の損まで引き受けたうえで前に出る、という重さがこの語にはある。辞典が類語として並べる「腹を決める」「腹を据える」「腹を固める」はほぼ同義で、言い換えが利く。

慣用句

息を呑む

いきをのむ

驚きや緊張、感動で思わず息を止めてしまうこと。美しいものや衝撃的な場面に出会い、一瞬呼吸が止まるほどの強い感情を受けた様子を表す言葉。良い意味(絶景や感動的な演技)にも悪い意味(衝撃的な知らせ)にも使える表現。「呑む」が「飲み込む・中に収める」を意味し、息を一瞬飲み込んで止める身体感覚を言語化したもの。英語の「hold one's breath」や「take one's breath away」に対応する。

慣用句

頭が下がる

あたまがさがる

相手の行いや人柄に対して深く感心し、心から尊敬の念を抱くこと。思わず頭を下げるほどの感動と敬意を感じる様子を表す言葉。特に、長年の献身的な努力や無私の奉仕、困難な状況での毅然とした姿勢に触れたときに使われる表現。単なる「尊敬する」よりも強い感情的な感銘を含み、体が自然に反応してしまうほどの感動のニュアンスがある。

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